身長を伸ばす方法 ― 東京大学の研究成果から分かった本当の身長の伸ばし方
はじめに
身長が伸びるメカニズム
骨が伸びると身長が伸びます。骨を伸ばすのは軟骨細胞と肥大軟骨細胞です。軟骨細胞が増殖して肥大化すると骨が伸びるのです。この軟骨細胞の増殖を促すのは成長ホルモンです。成長ホルモンはIGF-1を介して軟骨細胞の増殖を促します。
身長と睡眠
身長は眠っているときに伸びる
骨は眠っているときに伸びます。深い眠りのときにたくさん分泌される成長ホルモンが、骨の成長を促します。
就寝時間が早いか遅いかより、決まった時間に寝ることが大切
成長ホルモンは深睡眠中に分泌されるもの - archive
子どもの就寝時間で重要なのは規則正しさ=米研究 - WSJ.com
就寝時間が早いか遅いかは重要ではなく、決まった時間に寝ること大切です。
どれくらい眠ればいいの?
奨励睡眠時間
1~3歳 12~14時間
3~5歳 11~13時間
5~12歳 10~11時間
ハーバード公衆衛生大学院
脳の発達には長い睡眠が必要です。
オックスフォード大学のラッセル・フォスター教授
- 10歳までの子どもは9時間から9時間半の睡眠を取ることが望ましい。新しいことをひらめいたり複雑な問題を解決したりするには、十分な睡眠が不可欠です。*1
10歳までは、少なくても9時間、眠るのが望ましいようです。
中学生以上は7時間以上寝るのがベスト
たなか成長クリニッック院長 田中敏章 東京大学医学部卒
- 中学生以上で7時間以上寝ていて規則正しい普通の生活をしていれば、睡眠の量が成長率に影響を及ぼすことはないと思われます。*2
- 35歳から55歳の男女5431人に対して、記憶力、語彙力、推論能力に関するテストを行ったところ、7時間睡眠を行う人が最も成績がよく、6時間睡眠を行う人がその次に成績がよかった。*3
身長と栄養
美味しいものを食べると身長が伸びる
IGF-1は成長ホルモンと栄養状態に大きな影響を受ける成長因子です。IGF-1の分泌量は、成長ホルモンや良好な栄養状態に応答して増加します*4。美味しいものを食べると、IGF-1の血中濃度が上がるため、軟骨細胞の増殖が亢進します。
田中敏章『こどもの身長を伸ばす本』講談社 2011 P127より
- 肥満のこどもは一般的には成長ホルモンの分泌が悪いのにIGF-1が正常か高く、身長がよく伸びます。神経性食欲不振症のこどもは成長ホルモンの分泌が多いにもかかわらず、IGF-1は低値を示し、成長は阻害されます。
- 成人でも飢餓状態になるとIGF-1が低下し、その回復にはタンパク質とカロリーが重要だと報告されています。
タンパク質とカロリーです。タンパク質とカロリーをしっかり摂ると、IGF-1の血中濃度が上がり、骨がグングン伸びていきます。
美味しいもの
ビーフストロガノフ
クリームパスタ
身長と運動
まとめ
身長を伸ばす方法は
1. 美味しいものを食べて
2. ぐっすり眠り
参考文献
*1:『脳の発達には9時間睡眠が必要との研究結果』RocketNews24 2011
*2:田中敏章『こどもの身長を伸ばす本』講談社 2011 P132
*3:『7時間睡眠が最強説!過不足で最大7歳も脳が老化する可能性も』RocketNews24
*4:福嶋俊明『インスリン様成長因子』東京大学大学院農学生命科学研究科
*6:Suzanne Allen『Are There Exercises that Stunt Children's Growth?』 2014
成長曲線を使って着実に身長を伸ばしていこう
成長曲線
成長曲線とは?
成長曲線とは、ある決められた年度に、男女別にたくさんの子どもたちの身長データを集計し、年齢別に身長や体重の平均値を曲線でつないだグラフです。
- 藤枝憲二監修『横断的標準身長・体重曲線 0-18歳』ヴイリンク 2006
- 藤枝憲二監修『縦断的標準身長・成長率【成長速度】曲線 0-18歳』ヴイリンク 2006
成長曲線の使い方
成長曲線を使って、成長が急に鈍くなる、あるいは急に伸びるなどの変化を見ます。乳幼児期、前思春期、思春期(ICPモデル)の各時期に、成長曲線が妙な動きを見せるときは、骨の成長を損なう何らかの障害が働いている証拠です。
ICPモデル
成長曲線を使って着実に身長を伸ばしていこう
乳幼児期(0歳~3歳頃)
乳幼児期は生まれてから3歳頃までの体が急速に大きくなる時期です。この時期の成長率が低下する主な原因は栄養摂取量の不足であり、ホルモンの分泌に異常がない場合が多いです。成長率を向上させるために、乳児期はアラキドン酸とDHA入りの粉ミルクを飲ませて、7~8ヶ月以降は、必須アミノ酸、アラキドン酸、亜鉛を豊富に含む肉や固ゆで卵黄などの食べ物を食べさせるようにしましょう。
前思春期(3歳~男子10歳頃、女子9歳頃)
この時期は、男女ともほぼ一定の成長をする時期です。この時期に成長率の大きな変動が見られた場合、脳腫瘍による成長ホルモン分泌不全性低身長症、後天性甲状腺機能低下症、思春期早発症などの病気である可能性があるので、専門医を受診してください。
思春期(男子11歳頃~男子16歳頃、女子10歳頃~女子14歳頃)
思春期は急速な伸びの後に成長が停止する時期です。この時期の成長率が低下する主な原因は激しい運動にともなう栄養摂取量の不足です。
運動と栄養と休養
栄養も休養もとらずに、体重が減るくらいの激しい運動をやり続けると、身長が伸びにくくなります。激しい運動をしても、しっかり栄養と休養をとれば身長は伸びていきます。激しい運動をする場合は、しっかり栄養と休養をとり、身長・体重の成長率を低下させないようにしましょう。
参考文献
田中敏章『成長曲線』Nordicare
清水俊明『脳の発達を促す注目成分「アラキドン酸」』日経ウーマンオンライン 2013
細谷亮太『最新決定版 はじめての育児』学研マーケティング 2013
身長と運動
野瀬宰『適度な運動はいいが激しい運動は問題』野瀬クリニック
Suzanne Allen『Are There Exercises that Stunt Children's Growth?』 2014
ICPモデル
ICPモデル
こどもの成長のパターンは、おおきく乳幼児期、前思春期、思春期の3つに分けられます(ICPモデル)。各時期において成長に大きく影響する重要な因子は、乳幼児期では栄養、前思春期では成長ホルモン、思春期では性ホルモンと考えられています。
ICPモデル
乳幼児期(0歳~3歳頃)
乳幼児期は生まれてから3歳頃までの体が急速に大きくなる時期です。約50cmで生まれてくる赤ちゃんは1歳時までに約25cm伸びて約75cmになります。人の一生で最も成長速度が速い時期のため、栄養が重要であると考えられています。
前思春期(3歳~男子10歳頃、女子9歳頃)
前思春期は3歳頃から思春期が始まる前までの時期です。男女ともほぼ一定の成長をする時期で、3歳頃は年間約7cm伸び、思春期が始まる頃には年間約5cmの伸びになります。前思春期は、成長ホルモンの分泌量が多い子どもほど背が高く、少ない子どもほど背が低くなる傾向があるため、前思春期の成長には、成長ホルモンが重要であると考えられています。
思春期(男子11歳頃~男子16歳頃、女子10歳頃~女子14歳頃)
思春期は急速な伸びの後に成長が停止する時期です。男子は11歳6ヶ月頃から思春期が始まり13歳頃に成長率のピークを迎え年間約10cm伸び、女子は10歳頃から思春期が始まり11歳頃に成長率のピークを迎え年間約 8cm伸びます。その後、男女とも伸びは穏やかになり、最終的に伸びは止まり、成人身長に達します。
成長曲線
思春期と時計遺伝子
思春期に入ると、ホルモンの影響で就寝時間と起床時間が遅くなります。この体内時計の遅れは約2時間であり、これは女子では19.5歳まで、男子では21歳まで続きます。
参考文献
カールバーグ『ICPモデル』PubMed
田中敏章『乳幼児期、前思春期、思春期』たなか成長クリニック 2007
田中敏章『こどもの身長を伸ばす本』講談社 2011
田中敏章,冨部志保子『子どもの身長を伸ばすヒント』朝日新聞出版 2013
思春期と時計遺伝子
東京学芸大学『就寝・起床の平均時刻と睡眠の平均時間』
ラッセル・フォスター『思春期に入ると体内時計が約2時間遅れる』
ラッセル・フォスター『Why teenagers really do need an extra hour in bed』New Scientist 2013
成長ホルモン
成長ホルモン
成長ホルモンは192個のアミノ酸で構成されるタンパク質です。下垂体前葉のGH産生細胞で産生されます。成長ホルモンは睡眠、食事(絶食時や空腹時などの低血糖時)、運動時に分泌が亢進します。*1
睡眠と成長ホルモン
成長ホルモンは深い眠りの状態ときに分泌される
成長ホルモンは午後10時から午前2時にかけて分泌されるものではありません。成長ホルモンは特定の時刻に分泌されるものではなく深睡眠時に分泌されるものです*3。何時に寝ても深い眠りの状態になれば成長ホルモンは分泌されます。
身長とサプリメントの関係
タンパク質の加水分解
成長ホルモンとIGF-1はポリペプチドであるため、経口摂取すると胃で加水分解され、小腸でアミノ酸として吸収されます。成長ホルモンとIGF-1を経口摂取しても、成長ホルモンとIGF-1の血中濃度は上がらないため、骨の成長が亢進することはないです。*4
参考文献
*1:『生理学 VOL.10』
*4:日本内分泌学会『成長ホルモンの適正使用に関する見解』 2011
アルギニン
アルギニン
アルギニンはクエン酸回路の中間体であるα-ケトグルタル酸からグルタミン酸を経て生合成される非必須アミノ酸です。アルギニンを経口摂取した場合、アルギニンは肝臓のオルニチン回路でアルギナーゼによりオルニチンと尿素に加水分解されます。
参考文献
Utagawa T『Production of arginine by fermentation』PubMed 2004
椎名隆,佐藤雅彦,角山雄一『アミノ酸の生合成』化学同人 2009
Wikipedia『オルニチン回路』
日本小児内分泌学会『サプリメント等に関する学会の見解』2013
軟骨内骨化(軟骨細胞・破骨細胞・骨芽細胞の働き)
軟骨内骨化のメカニズム
まず未分化の間葉系細胞が凝集します。中心部の間葉系細胞は軟骨細胞へ分化し、Ⅱ型コラーゲン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンを含む軟骨基質と呼ぶ細胞外マトリックスを形成しながら、増殖し骨を伸ばします。辺緑部の間葉系細胞は軟骨膜細胞へ分化し、軟骨膜を形成します。軟骨細胞と軟骨膜細胞は共役して骨の原型を形作ります。
参考文献
岩田久『骨形成 - 1.25 (OH)2D3の役割 - 』
Amgen『骨芽細胞と破骨細胞』
*1:松尾光一監修『細胞工学 Vol.30 No.3 2011』学研メディカル秀潤社 2011 P230
*2:Henry M. Kronenberg『PTHrPとIhhによる負のフィードバックループ』Nature 2003
*3:阪医シケ対サーバ『[過去シケ対] [110909] 組織 骨 まとめ』2011
*5:『硬組織の形成と石灰化機構』日本歯科大学 2003
*6:エーザイ『基質小胞における石灰化機構』2008
*7:福井有香『骨形成』慶應義塾大学理工学メディアセンターリポジトリ
*8:塚本勝男『HAPの形成メカニズム』東北大学大学院理学研究科
*9:網塚憲生『石灰化のメカニズム』北海道大学大学院歯学研究科
*10:『硬組織の形成と石灰化機構』日本歯科大学 2003
*11:菅原明喜『骨発生のメカニズム』クインテッセンス出版 2013
*12:川口浩『軟骨内骨化のしくみ』東京大学医学部附属病院 2010
*14:エーザイ『ビタミンD3とビタミンD受容体(VDR)』2005
骨芽細胞は軟骨膜内に最初に出現し、将来の皮質骨である骨殻を形成する
骨芽細胞は軟骨膜内に最初に出現する
軟骨内骨化機構において、骨芽細胞は石灰化軟骨細胞に隣接した軟骨膜内に最初に出現する。前肥大・肥大軟骨細胞層に発現しているIhhは、軟骨膜に存在する骨・軟骨細胞に直接的に作用し、骨芽細胞分化の最も初期の分化を誘導すると考えられている。
北條宏徳,大庭伸介,鄭雄一「軟骨内骨化におけるヘッジホッグシグナルの役割」
松尾光一監修『細胞工学 Vol.30 No.3 2011』学研メディカル秀潤社 2011 P241
骨殻形成
軟骨膜に存在する骨芽細胞前駆細胞は、肥大軟骨細胞の分泌する種々の成長因子の刺激を受けて、骨芽細胞に分化し将来の皮質骨である骨殻を形成する。
大庭伸介,鄭雄一「多能性幹細胞を使った骨再生」
日本再生医療学会『骨格系 (再生医療叢書) 』朝倉書店 2012 P132
軟骨内骨化における骨芽細胞の働き
軟骨内骨化の過程
『The skeleton: a multi-functional complex organ. The growth plate chondrocyte and endochondral ossification』
海綿骨・骨梁の形成
軟骨膜に存在する骨芽細胞前駆細胞および骨殻に存在する骨芽細胞は、石灰化軟骨基質に血管とともに侵入し、破骨細胞による石灰化軟骨基質分解と共役しながら骨基質を産生して一次海綿骨を形作り、後に骨梁と骨髄となる。
北條宏徳,大庭伸介,鄭雄一「軟骨内骨化におけるヘッジホッグシグナルの役割」
松尾光一監修『細胞工学 Vol.30 No.3 2011』学研メディカル秀潤社 2011 P240
オステオカルシン
オステオカルシンの産生
骨芽細胞がオステオカルシンを産生します。骨芽細胞のDNAに活性型ビタミンD3が作用してオステオカルシン前駆体が生成され、それにビタミンKが作用してグルタミン酸のγ位炭素がカルボキシル化されGlaに置換されオステオカルシンが生成されます。
オステオカルシンは糖代謝を促す
健常小児の0歳から17歳までの身長SDスコアの変化
要旨
田中敏章『学術活動 17』たなか成長クリニック